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 身近な土砂災害 - 斜面災害と裁判事例
 最近は自宅の裏山や別荘地の斜面等の安全性に関する問い合わせが増えてきました。ややこしいことですが斜面災害が裁判にまで発展するケースもあります。斜面の土砂は人の意志で動くのではなく自然現象ですので土地所有管理者の管理責任だけを問い正すことはできませんから、身近な斜面の地盤の性質をよく知っておくことが大切です。ここでは、実際に私たちが携わった裁判事例を紹介します。
崖崩れが発生し、訴訟になった事例 
 広島県呉市の崖崩れの際には崖下の家屋が半壊し、その住民が崖の上に住んでいる崖の所有者に対して、損害賠償の民事裁判を起こしました。 崩壊が発生したのは1993年7月28日の午後4時前後でした。呉市では28日夕方までの連続雨量は256mmに達していました。崩壊したのは昭和初期に作られた古い石積み擁壁で、この崩壊により下側の敷地の家屋は半壊し、家屋の多くが土砂に埋まった状態となりました。 
 幸い崩壊による人的被害はなく家屋の物的被害にとどまりましたが、被災した住宅はそのまま住める状態ではなく、長期の仮住まいを強いられました。ここで、被災した崖下の住人が崖の所有者である崖上の住人に宅地の復旧と住宅の建て直し、仮住まいの費用、精神的慰謝料等を求めて訴訟を起こして、訴状において原告(崖下の被災者)が主張したことは、被告(崖上の加害者)の斜面管理に手落ちがあったのではないかということです。
 しかし、実際には示談で解決し、賠償金は大幅に減額されました。その主な理由は、人災ではなく天災の要素強かったこと、すなわち
 ①同時に多数の崩壊が起こった豪雨   ②過去の事例からも災害につながる豪雨である
 ③集水地形・公共排水溝からの雨水流入という個人の力の及ばな い部分が大きい
  
崖崩れの状況と原告・被告宅の位置関係 
 技術者は原告側・被告側あるいは裁判所から技術的資料の作成や工学的な判断を求められます。その役割として、裁判に対する中立を守り科学的にわかり易い資料を提出することが、技術者としての要件です。地盤災害の専門家でない裁判官にいかにわかり易く時間と手間をかけて説明するかが、裁判の勝因につながります。

 参考資料:いずれもダウンロードできます
1) 稲垣秀輝(2001):暮らしとその安全のための応用地質,応用地質,vol.42,no5,pp.314-318.
2) 垣秀輝・大久保拓郎(2004):呉市街地の斜面崩壊と訴訟対応,地すべり,vol.40,no5,pp.74-77
3) 下河敏彦・稲垣秀輝・大久保拓郎(2009):都市の安心・安全な斜面意地の取り組み,地すべり,vol.46,no2,pp.90-96
4) 下河敏彦・稲垣秀輝・大久保拓郎(2010):市民にとっての地質技術とアウトリーチ,応用地質,vol.50,no6,pp.345-349.
5) 講座 地盤工学におけるリスクマネジメント 6.裁判事例から見た地盤リスク 地盤工学会誌59巻11号 pp.98-105


  

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